プロローグ
2002年6月11日PM22:00 東応学院大学物理学部時空物理学研究室、通称「境研究室」
「関東地方は今夜遅くから明日朝にかけて断続的に雨、ところにより激しく振るでしょう。落雷、突風にも十分ご注意ください。明日まで降水量は……」
研究室の片隅の古ぼけたテレビが梅雨の時期特有のありがたくない天気予報を伝える。
「準備は万端だね、Mr.ファーブル?」
白衣に身を包んだメガネの男が窓際にたたずむ青い目の男に問いかける。
「なにも問題はない。後はここにうまく雷が落ちてくれるのを祈るばかりさ」
ファーブルという名のフランス人は窓際におかれた物々しい機械の中を覗きながらそう答えた。
「それにしても、雷のエネルギーを直接取り入れるなんてあまりに無謀だ。万が一失敗でもしたらみんな仲良く感電死だぞ、Dr.サカイ」
機械の中で計器類の確認をしているアメリカ人が口を開く。
「確かにあなたの理論は完璧だ。学会では笑いものかもしれないが、この方法なら過去へのジャンプも不可能ではない。しかし・・・」
アメリカ人の言葉を遮るようにサカイと呼ばれた白衣の男が話しかける。
「雷のエネルギーを直接利用するなんて無茶だというのかい。そんなこと言い出したら、過去へタイムトラベルするなんてもっと無茶なことじゃないか、Mr.スタウト?」
両手を広げておどけたような口ぶりでアメリカ人の男の方を向く。
「雷のエネルギーを吸収してタイムトラベルなんて、どこかの映画のワンシーンじゃないか!あまりに非現実的だ!」
声を荒げるスタウトに対して、相変わらず機械の中を覗きながら呆れたようにファーブルは口を開いた。
「そのために私がここにいる。私とDr.サカイが信用できないのならば、今すぐ国にでも帰ることだな」
にらみ合う2人をやれやれといった顔で見ながらサカイは助手と思わしき女性に話しかける。
「段々雨雲が近づいているようだ。上手くいけば今夜にも決行できるかもしれない。そのとき君は新たな歴史の1ページの目撃者となるわけだ。よろしく頼むよ牧原君」
「はい。これから境先生の行うことはしっかりと記録させてもらいます。安心して行って来てくださいね」
微笑む助手の髪の毛をなでながら境は続ける。
「頼むよ。君は優秀で美人だけど、少し抜けたところもあるからね。最終チェックはくれぐれも慎重にね」
「おだてたって何もでませんよ、境先生」
助手に対してもおどけた表情をした境は相変わらず窓際の機械の所で睨み合いをしている2人の元へ向かっていく。
「そのくらいにしておこうか。今日は我々にとって記念すべき日になるかもしれないんだ。小さなことで言い争うのはやめて、人類の大いなる一歩を最初に踏み出せる瞬間を落ち着いて待とうじゃないか。とりあえずコーヒーでも飲もうか」
続く
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